意地悪な副社長との素直な恋の始め方
不意打ちに、心臓が止まりそうになった。
「……そ、れは、でも、まだ」
喘ぐように応えながら、必死に頭の中で何と説明すべきか考える。
しかし、朔哉はわたしが考えをまとめるのを待ってはくれなかった。
『偲月がモデルを務めるブランドのデザイナー兼社長は、俺の友人だ。服を見繕ってもらうのに、偲月の写真を見せていたから、部下が寄越した画像を見て、すぐにモデルの正体がわかったらしい。念のため、俺の意向も一応確かめておきたいと連絡してきてくれたんだ』
(嘘でしょ……)
偶然のひと言で片付けるには、出来過ぎな巡り合わせに、声も出なかった。
『俺の家を出る前から……何もかも、決めていたんだろ?』
「…………」
『相談どころか、報告さえしてもらえないとは、思わなかった』
(ちが、う)
『必要ない』
(……え?)
『偲月のこの先の人生に、俺は必要ないってことだろ』
「ち、ちがうっ!」
ようやく出た声は、悲鳴のような叫びになり、思わず立ち上がった拍子にゴンドラが揺れ、転びそうになった。
「偲月!」
咄嗟に流星が抱き止めてくれたので転ばずに済んだが、電話の向こうの朔哉にも、彼の声が聞こえていた。
『流星と一緒なんだな』
「さ、朔哉、ちがうの、これは、」
深い溜息でわたしの言葉を遮った朔哉は、ぽつりと呟く。
『……もういい』
「ま、」
『答えはもう出てる』