意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「出てない! 待ってよ! 話を…話を聞いてよっ! 朔哉!」
必死に叫ぶが朔哉の返事はなく、電話が壊れたのではないかと見れば、すでに通話は終了していた。
床にへたり込んだわたしを見下ろす流星は、沈痛な面持ちで謝ってくる。
「偲月……悪い。黙ってるべきだったのに」
彼がわたしの名を呼んだのは、わざとではない。
わかっていたから、責める気にはなれなかった。
「……流星さんの、せいじゃない」
「でも、誤解されたんだろ?」
「それは……わたしが、ちゃんと先に説明しておかなかったからで」
「何を……って、まさか、おまえモデルの件、まだ言ってなかったのか?」
驚愕する流星を見て、自業自得だと自嘲の笑みが漏れた。
「見通しが立ってから話そうと思って。明日、会社を辞めることとか、月子さんを撮ることとか、全部まとめて話すつもりだったんだけど……。『avanzare』のデザイナー兼社長が、朔哉の友だちだったみたい。それで……わたしのこと知っていて、朔哉に連絡して……バレちゃったの」
「それは……予想外だな」
「ちょっと考えれば、ヒントはいくらでもあった。朔哉が買ってくれた服、全部同じブランドだったし。コーディネートを頼んで、翌日には届けるよう無理を言えるくらいなんだから……融通をきかせられる立場にいるひとと知り合いなんだって、考えればわかったはずなのに……」
ただ、与えられるものを受け取って、何の疑問も抱かずにいた呑気な自分を締め上げたい気分だ。
「それで、朔哉にモデルの件を反対されたのか?」
「……ううん」
わたしに対して思うところがあったとしても、友人のブランドが大きく飛躍できるチャンスを私情で潰すようなことは、しないだろう。
「じゃあ……」
「もういいって。答えは出てるって」
「それって……」
流星は驚きに目を見開き、何かを言いかけ、途中で口を噤む。
朔哉の言葉を耳にした瞬間は、動揺と衝撃で、何を言われているのか理解していなかった。
でも、こうして改めて自分の口から説明していると、イヤでもその言葉が何を意味するのかわかる。
「それって……デートする前に、フラれたってことでしょ」