意地悪な副社長との素直な恋の始め方


立ちっぱなしだった脚は棒のようで、つい、タクシーの誘惑に負けそうになったけれど、どうにか気力を振り絞り、電車に乗り込んだ。

金曜の夜だからか、車窓に映る同乗者たちは、大きく分けて二種類。

一刻も早く家に帰り着きたい人たちと、これから楽しい予定に繰り出そうとしている人たち。
わたしのように、どちらでもない人もいるかもしれないけれど。

ぼんやりと窓の外を過ぎる明かりを眺め、ふと思う。

このまま何の連絡もないまま今日が終わり、明日になり、明日もそのまま過ぎて明後日になり。
一週間後も、半月後も、一か月後も連絡がなければ、どうなるのか。


(もしかして……このまま、終わる?)


いままでは、朔哉から十日連絡がなくても、一か月会えなくても、終わりだなんて思わなかった。

そのうち、彼から連絡して来るのはわかっていたし、一時は疎遠になっても、勝手にアレコレ口出し、手出しをされて、途切れそうになる関係を上書き更新されてきた。

いつか終わると思いながら、心のどこかで終わるはずがないと、思っていた。

朔哉が、終わらせるはずがないと、思っていた。


(シゲオの言うとおりだった……)


ずっと、甘えていたのは、わたしだった。
朔哉との関係を終わらせたくないと思っていたくせに、自分からは何もしなかった。

だったら、最後に一度だけ。
勇気を振り絞って、終わりにしたくないと言いに行くべきなんじゃないか。
誤解を解くために、出来る限りのことをすべきじゃないか。

そう思った。

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