意地悪な副社長との素直な恋の始め方


朔哉のマンションの最寄り駅で降り、改札を抜け、いつの間にか歩き慣れていた道を足早に辿る。
見慣れたエントランスの前で足を止め、オレンジ色の光に照らされた外壁を見上げた。

前もって、知らせるつもりはなかった。


(エントランスから先に行けなければ、そこで引き返す)


そう覚悟を決めたものの、あっさり指紋認証をクリア。
エレベーターに乗り込む。

三階でエレベーターを降り、玄関のドアに手を伸ばして、思い直した。

留守だったら、勝手に入るのはためらわれる。
震える指でチャイムを鳴らし、しばらく待ち、不在なのかと思いかけた時、ドアが開いた。



ドアを開けたのは、朔哉ではなかった。



「……偲月ちゃん?」


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