意地悪な副社長との素直な恋の始め方
******
(いつまでも……ここにいても、しようがない……)
しばらく、ドアの前で立ち尽くしていたが、鞄の中で震えるスマホに促され、エレベーターに乗り込んだ。
エントランスを出て、しつこく着信を知らせるスマホに応答しようとして、目を見開く。
ガードパイプに腰かけていたのは、まさにいま、わたしのスマホを鳴らしている人物だった。
「りゅ、うせいさん」
「なに、シカトしてんだよ? さっさと出ろよ」
「……な、んで?」
「サヤちゃんが、偲月の様子がおかしかったから、心配だって連絡して来たんだよ」
「…………」
「それで、朔哉とデートは……できなかったみたいだな?」
「うん……」
「待ち合わせにも来なかった、とか?」
「……う、ん」
「電話してみたのか?」
「……で、できな、かった」
「部屋にいたのか?」
「た、ぶん」
「踏み込んで、確かめ……られねぇだろうな。偲月には。いや、待てよ……朔哉以外の人間もいたのか? そりゃ、修羅場……」
深刻な話をどうにか軽くしようという流星なりの気遣いなのだろうけれど、もうすでにこれ以上はないくらい、落ち込んでいるわたしには逆効果だった。
堪えていることすら気づかないほど、深く穿たれた傷口から、一気に痛みが広がり、溢れ出した。
「うぅ……」
「アイツ、何考えてんだ……」
ぼそっと呟いた流星は、泣きじゃくるわたしの腕を取ると、通りの少し先に路駐していた車の助手席に押し込んだ。