意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「データ、見せてみろよ」
一眼レフを流星の手に戻し、ふと素足をくすぐる波の感触に遊び心を刺激された。
(インスタ向けにいいかも……)
これまで非公開にしていたインスタのアカウントは、カメラを仕事にするならば、公開してみるべきかもしれない。
直接仕事のオファーに繋がる可能性は低いけれど、他人の目に触れることを意識して撮るのも、いい勉強になるだろう。
少し屈みこんで、波が引くタイミングでシャッターを切ろうと待ち構え……思いがけず大きな波に見舞われて、よろめいた。
「わ!」
かろうじて踏み止まり、転んでびしょ濡れ……という最悪の事態は免れたが、手にしていたスマホが宙を舞う。
(きゃーっ! す、スマホが!)
あわや水没かと青ざめたが、運よく波が到達していない、乾いた砂の上に落下した。
(あ、危なかったぁ……)
画面が割れたくらいなら、修理に出せば何とかなるが、水没となると手の施しようがない場合がほとんどだ。
危機一発だったと安堵しながら、拾い上げようと屈みこんだところ、不意打ちでさらに大きな波が押し寄せた。
「きゃっ!」
今度は踏み止まれず、スマホを掴み上げようとした手ごと水没する。
(う、うそぉ……)
「防水……じゃ、なさそーだな」
悲劇の起きた瞬間を目撃していた流星が、ぼそっと呟く。
「う……」
「バックアップは?」
「画像はクラウドに保存してるけど、連絡先とかは……」
スマホで撮影した画像は、クラウドストレージに保存するよう設定していたが、電話帳などの情報のバックアップは取っていなかった。
理由は、特にない。単に、いらぬデータ同士の連携やら何やらが、面倒くさかっただけだ。
とても、マズイ。
非常に、マズイ……。
頭を抱えたくなったが、ふと、別の考えが脳裏を過った。
(でも、これでよかったのかも、しれない)