意地悪な副社長との素直な恋の始め方
連絡しない、のではなく、できない。
連絡が来ない、のではなく、受け取れない。
そんな状況に我が身を置けば、朔哉からの連絡を待ちたがる気持ちを強制的にシャットダウンできる。
いま、このタイミングでスマホが水没したのは、神様の思し召しのような気がした。
(……壊れる運命だったのかもしれない。わたしと、朔哉の関係も)
傷や不具合を修理しても、壊れてしまう運命だったのなら、諦めるしかない。
いくら気に入って、長年使い慣れていたとしても、別のもの、新しいものを選び、それに慣れていくしかないのだ。
「応急処置して、ショップに持って行けばデータは救えるかもしれないぜ?」
ネットで、水没したスマホの救い方を検索してくれたらしい流星に、首を振る。
「いいよ、もう。……諦める」
「でも、そんなに古いモデルじゃないだろ?」
「うん。でも、もっと安いプランのあるXXへの乗り換えを考えてたから」
これからは、収入も不安定になるだろうし、贅沢はできない。
「それなら、ショップの店員をしてる知り合いを紹介するぜ? いろいろ融通利かせてくれると思うし。取材が終わったら、連れてってやるよ」
「え、そんな……」
そこまで甘えられないと言おうとしたのを遮るように、流星が「それくらいさせてほしい」と言った。
「これでも、一応責任感じてんだよ。誤解を招いたのは、勝手に偲月に付いてった、俺のせいだろ? 昨日、朔哉に俺と偲月が一緒にいたのは偶然だと事情を説明すればよかったんだ。下手に首をツッコんで、余計に拗れるとマズイと思って、フォローせずに……悪かった」
流星は、いまからでも朔哉に説明しようか、と言い出す。
「ううん、いいの! 本当に、流星さんのせいじゃないから。たぶん、遅かれ早かれ、こうなる運命だったんだと思う」