意地悪な副社長との素直な恋の始め方

朔哉が体調を崩したから、会えなくなったのだとは思わなかった。
最初から、わたしと会うつもりがあったのなら、メッセージに返信していたはずだ。


「朔哉は、もう……わたしと会いたくないんだと思う」


自分で自分にトドメを刺す言葉を口にすれば、うっかり涙が溢れそうになる。

諦めるには、一晩では足りない。
きっと、長い、長い時間が必要だ。

その長い時間の中で、失われたものを探して振り返るのではなく、これから出会うものを探して前を見なくては――。

嗚咽が漏れないよう唇を引き結び、涙がこぼれ落ちないよう水平線をじっと見つめていると、流星がおもむろに口を開いた。


「……なあ、偲月」

「……?」

「スマホを乗り換えるついでに、朔哉から俺に乗り換えろよ?」

「え……」


冗談かと思い、横に並ぶ彼を見上げたが、そんな様子はまったく感じられない。

むしろ、普段のチャラい印象を塗りつぶすくらいに真剣な表情で、わたしの手から壊れたスマホを取り上げた。


「失恋の特効薬、知ってるか?」

「……知らない」


そんな便利なものがあるのなら、いますぐ欲しい。
つい期待のまなざしで見つめてしまう。


「それは、……」


目を逸らすことなく、見つめ返す流星は、笑みに頬を緩めてきっぱり言い切った。



「新しい恋だ」



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