意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「これ、いいね」
「こっちは、イマイチ。シチュエーション、外の方が映えるんじゃない?」
「撮り直し間に合う?」
「んー、来週なら、ギリギリ」
「浜本さんのスケジュールは?」
「何とかならないこともない」
ひと目見ただけで削除されるデータもあれば、文句なしで採用されるものもある。
プロの手で撮影された自分の姿は、自分であって、自分ではないような、不思議な感覚だ。
「いくつか別日で撮り直す必要があるけれど、うちの社長も納得するにちがいないわ」
そう言って顔を綻ばせた中野さんに、一同安堵する。
「よかった……」
「次は、コートよね? 気温が上がる前に撮影した方がいいわよね? 中野ちゃん」
花夜さんの指摘に、中野さんは大きく頷いた。
「そうですね。ダウンとかもあるし、新しいモデルだけじゃなくて、定番モデルも再販する予定なので、結構な点数がありますし……」
「じゃあ、日程調整して連絡してちょうだい」
「了解です」
花夜さんと中野さんが、次の撮影について話す横で、テキパキ道具を片付けている浜本さんに改めてお礼を言う。
「あの、浜本さん、ありがとうございました」
「こちらこそ。時間内で撮影を終えられて、助かった」
売れっ子カメラマンの浜本さんは、このあと次の現場があるらしい。
「浜本さんが、上手く撮ってくれたからです」
「いやいや。偲月さんは、意図を汲み取って動いてくれるから、やりやすかったよ。日村から聞いたけど、カメラ、やるんだって?」
「はい。と言っても、アマチュアで……。日村さんの助手をしながら勉強中です」
「あいつの助手やるのは、いい勉強になる。マルチだからね。撮りたいもの、スタイルが確立していないなら、なおさらだ」
デジカメ、フィルムカメラ、カラー、モノクロ等々、カメラやフィルムにはいろんな種類があり、撮影スタイルもひとそれぞれだ。
ひと口にフォトグラファーと言っても、浜本さんのように、ファッション系に絞って活躍するひともいれば、コウちゃんのように何でも撮るひともいる。
「コンペ……は、まだ無理でも、コンテストとか挑戦しないの?」
「一応、考えてはいるんですけれど、撮りたいものが定まらなくて」
「それこそ、コンテストの特徴に合わせて、何でも撮ってみればいいんじゃないかな? 自分の才能って、案外自分ではわからないものだからさ。モデルだって、自分で向いてるって思ったわけじゃなくて、日村に勧められたんでしょ?」
「はい」
「挑戦し続けるうちに、きっと見つかるよ。頑張って」
優しく励ましてくれた浜本さんは、ポン、と軽くわたしの肩を叩いた。
「ありがとうございます」
「花夜さん、中野っち! 俺、もう行くわ。データあとで送る。何かあったら、連絡して! おつかれ!」
「おつかれさまでした」