意地悪な副社長との素直な恋の始め方
去っていく彼の背中を見送って、素早く撤収。
コウちゃんのところへ行くべく、カフェを立ち去ろうとしたら、電話中の花夜さんに後ろ襟を掴まれた。
短い相槌を打つ彼女に、口パクで『ちょっと待ってなさい』と言われ、首を傾げる。
「……わかりました。それでは明日、お伺いさせていただきます……偲月」
満面の笑みで電話を切った花夜さんは、ばっちりアイメイクの目力でわたしをその場に釘付けにする。
「は、はいっ!?」
「明日のスケジュール、何か入ってる?」
「午前中は、月子さんの撮影に付いて、午後はヨガのクラスがあります」
「午後の予定は、キャンセルして。十四時以降、まるっと空けてちょうだい。仕事の打ち合わせをするから」
「打ち合わせ?」
「ええ。詳細は明日伝えるわ。十三時半に事務所に来て。じゃあ、おつかれさま」
花夜さんは、それ以上説明してくれる気はないらしく、もう行っていいと手を振る。
「おつかれさまでーす……」
腑に落ちないまま、撮影道具一式が入る重いリュックサックを背負い、立ち去ろうとした背に、「本屋!」と叫ぶ花夜さんの声が聞こえた。
「はい?」
「本屋に寄って、雑誌コーナーをチェックしておきなさい」
「はぁーい……?」
普段から、あらゆるファッション雑誌をチェックするよう言われているので、素直に頷いた。
それから三十分後。
わたしは、駅前の大型書店で人目もはばからず叫びそうになった。