意地悪な副社長との素直な恋の始め方
知らぬ間に、デビュー
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「こ、ここ、コウちゃん! 大変! これっ! の、載ってる!」
「あ、偲月ちゃん。見た? グループ会社の出版社が発行しているとは言え、表紙を飾るなんてすごいことだよ。これから、モデルの仕事が次々舞い込むかもよ?」
「う、うん……」
本屋を経由して、日村写真事務所に駆け込んだわたしは、手にしていた雑誌をコウちゃんに差し出そうとして、だらりと腕を下げた。
コウちゃんの仕事場、大きなテーブルの上には、わたしが手にしているのと同じ結婚情報誌がある。
結婚情報誌では圧倒的なシェアを誇る雑誌の表紙、そして巻頭見開き四ページを埋め尽くしているのは、『Claire』のウエディングドレスを着たわたしと、顔は出していないものの、花婿役を務める流星だった。
「それにしても、ほんといい写真だよ。雰囲気もばっちり。偲月ちゃんもそう思うでしょ? ……って、自画自賛になるかな? あはは」
朗らかに笑うコウちゃんに感想を求められ、ぼそぼそと小声で答えた。
「や、わたしも……いい写真だと、思う」
自分で言うのもなんだけれど、雑誌に掲載された写真のわたしは、とてもいい笑顔をしている。
まさに、「幸せ」な花嫁そのものだ。
(こんな風に笑えたのは……朔哉のおかげだけど)
緊張を解いてくれた朔哉のキス。
流星にバックハグされた状態で見た、嬉しさを堪えているような彼の表情は、いまでも鮮明に思い出せる。
(朔哉は……この写真を見て、どう思ったんだろう?)
直接感想を聞いてみたかった――なんて思いかけ、「ダメダメ」と心の中で激しく首を振る。
(何をいまさら。もう、関わることはないんだから、感想を聞いてもどうしようもないでしょ?)
「予想以上に反響が大きくて、ヤギちゃんたち広報部はてんてこまいだって、お昼に電話あったよ。本格的なモデルデビューへの足掛かりになって、よかったね?」
「うん。けど、いつの間に掲載されることになったんだろ……」
雑誌の発売日は今日。誰も事前に教えてくれなかったから、てっきりモデルを変えて撮影し直したのだろうと思っていた。
流星から、プレスリリースで日本初上陸となる『Claire』との独占契約は発表されたものの、わたしと朔哉の婚約発表はなかったと聞いていたせいもある。
「あれ? 連絡来なかった? 俺のところには、副社長から直々に電話があったし、ジョージくんにも連絡が来たって聞いたけど……」
「え……」