意地悪な副社長との素直な恋の始め方


何がなるほどなのか。

さっぱり、わからない。

戸惑い、混乱しながらも、二人の遣り取りに口を挟めずにいたわたしの代わりに、月子さんが流星のデタラメな発言をばっさり切って捨てた。


「お話し中、ごめんなさい。実は、偲月ちゃんには、ハジメくんよりもっとお似合いの人がいるのよ。ほら」


彼女のスマホに映し出されたのは、スーツ姿の朔哉だ。
上から下まで、一部の隙もなく、モデルのようにカッコイイ。


「しかも、このイケメンさんはね、偲月ちゃんのことがすごーく好きなの」

(月子さん、絶対にわたしと朔哉のこと、感づいてるだろうに……なんで、そんなこと言うの……?)


わたしたちの間に、何もなかったかのように振る舞う月子さんの態度に、もう感じなくなっていたはずの、胸の痛みがぶり返した。

婚約発表もなく、結婚の話も具体的にならない。
同棲も解消して、プライベートで会うこともなく、連絡さえ取り合っていない。

はっきり言葉にしていないだけで、いまの状況を見れば破局は明白だ。


(もう、無理なのに。いくらわたしがやり直したいと思っていても、一方通行じゃ無理なのに。朔哉が、いまもわたしをすごーく好きなわけ、ないのに……)


それなのに、

まだ諦めるのは早い。
まだ、やり直せる。

そう励ますような月子さんの優しい笑みに、じわりと熱いものが目尻を濡らす。

うっかり泣き出さずに済んだのは、双子の現金な言葉のおかげだ。


「「このひと……」」


叔父さんがどんなに大好きでも、双子の目は曇っていなかった。


「「ハジメくんより、イケメンだね!」」


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