意地悪な副社長との素直な恋の始め方


「……おい」

「もしかして、月子さんの息子さんですか? モデルや俳優できそうなくらい、カッコイイじゃないですか!」


イケメン基準が厳しいらしい透子さんは、抗議しかけた流星を邪険に押し退けて、身を乗り出す。


「ふふ、ありがとう。残念なことに、女心に疎くって、中身はハジメくんの足元にも及ばないんだけれど、見た目だけはイケメンに育ってくれたのよー」


月子さんは、自慢の息子だと言いながらも、評価はシビア。

しかし、透子さんは意に介さない。


「そこがまたギャップがあっていいじゃないですか! どうしよう……彼を見ているだけで、ラブストーリーが何本も浮かぶ……。御曹司との身分差の恋、令嬢と暗い過去のあるイケメンの恋、ナンパ男と失恋女の恋、同期の友だちから始まる恋……いいわぁ」

「ミミ、このひとのお嫁さんになる!」

「ナナも!」


キャッキャと盛り上がる女性陣に、流星はうんざりした表情で首を振った。


「顔だけイケメンのどこがいいんだ。薄情なヤツラだぜ」

「夢を見る相手は王子様。実際に付き合う相手は近所の幼馴染。それが無難なところでしょ」


シゲオの分析に、海苔に酢飯を載せながら、流星はニヤリと笑う。


「ってことは、偲月の相手は俺になるよな?」

「ならない」

「即答かよ」


朔哉ほどではないが、流星だって映画監督の息子、華やかな世界の住人だ。
近所の幼馴染という役柄には、当てはまらない。

紳士で世話好きな流星は、不服そうに眉根を寄せながらも、カイワレ大根にマグロ、ワサビやキュウリなどの具を入れた手巻き寿司を差し出す。


「あ、ありがと」

「この通り、料理もできるし、サービス精神も旺盛。しかも、フリー。お買い得だろ?」


自らを売り込むも、シゲオが辛口でツッコむ。


「でも、セールで売られるのには、それなりの理由があるのよね」

「ジョージは、どっちの味方なんだよ?」


アボカドとマグロ。スモークサーモンとクリームチーズ。ツナマヨとキュウリ。
双子たちのために、せっせとワサビ抜きの手巻き寿司を作っていたシゲオは、肩を竦めて嬉しいことを言う。


「どっちでもないわ。偲月の味方なだけよ」


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