意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「……シゲオぉ」
篤い友情に感激したのも束の間。続けられた言葉に、ショックを受ける。
「だって、ちょっとでも放っておくと、何でそんなところに行くのよ! って、言いたくなるくらい、自ら崖っぷちに突っ走るんだもの、この子。しかも、何かと間が悪すぎて、不憫だし。フツー、浮気や略奪で拗れている最中に、スマホ水没させる? わざとならまだしも、自分の足を撮ろうとしてなんて、間抜けすぎるでしょ」
「…………」
「確かに、あり得ないタイミングで不運に見舞われるよな」
「だから、ちょっとやそっとじゃ、この子の不運に左右されないくらいの強運の持ち主じゃないと人生狂うわよ」
「それなら、大丈夫だ。俺はしぶといし、逆境にも強いし。修羅場にも慣れてる。万能だぜ?」
一部、自慢にならないようなことを含めて主張する流星に、シゲオは満面の笑みで、きっぱり言い渡した。
「万能でも、ダメよ」
「なんでだよ?」
「偲月を笑わせることはできても、泣かせることはできないからよ」
「泣かせる男なんて、ロクなもんじゃないだろ」
「ええ、その通りよ。でもね、少なくとも、それほどまでに心を奪う存在だという証拠でしょ? 泣く価値もない男こそが、本当の意味でのロクデナシよ」
「納得できねぇな。辛い思いをするために、恋するわけじゃないだろ?」
「お手軽な恋愛なら、楽しいとこ取りでいいと思うわ。でも、偲月は恋愛遊戯を楽しめるほど器用じゃないの。本気じゃないなら、思わせぶりな言動はやめてちょうだい。そんなことをしても……誰のためにもならないわよ? ハジメ自身を含めてね」
「…………」
口が達者なはずの流星が、何も言い返さず黙り込んだのは、図星を突かれたからかもしれない。
シゲオは、それ以上追い詰めるようなことはせず、「難しい話は、これでおしまい」と宣言した。
「取り敢えず、食べる時に小難しいことを考えるのは、よしましょ。消化によくないわ」
シゲオに刺された釘が効いたのか、流星は、それ以後、紛らわしい発言はしなかった。
双子ちゃんと透子さんに、「その組み合わせはイヤ」「もっと入れて!」などと文句を言われながら、せっせと手巻き寿司を作ることに専念していた。
その様子は、「家族」そのものだ。
カカア天下で、妻の尻に敷かれている夫、カワイイ娘に甘い父親以外の何者でもない。
何も知らない人が見れば、本当の家族だと思うだろう。