意地悪な副社長との素直な恋の始め方
仲睦まじい家族の姿に、ちょっぴり羨ましくなりながら、次は何のネタを巻こうかとお皿に視線を戻しかけ、ギョッとした。
「つ、月子さん、それ多すぎじゃあ……」
「そう? あら……巻けないわ」
月子さんがどう見ても巻けない量の酢飯とネタを海苔に載せていた。
具材の重みでヘタった海苔の「もう無理~!」という悲鳴が聞こえてきそうだ。
「どうしましょ。いまさら元には戻せないし……。海苔で挟んで、サンドイッチみたいにしたらどうかしら?」
(いやいや、それはもう別の料理では……)
「そこまで載せたなら、太巻きにすればいいのよ。ラップを使えば、簡単にできるから」
機転の利くシゲオは、キッチンからラップを持って来ると、月子さんから手巻き寿司になれなかったものを引き取った。
色どりをよくするために、さらに何種類かネタを投入し、ラップでくるくると細長いキャンディのように手際よく丸める。
「こうしてしばらく置いておけば、そのうち馴染むわ」
「ありがとう、ジョージくん。じゃあ、次は海老に挑戦しようかしら……」
「どういたしまして……って、だから、初っ端からそんなに載せなーい! 貸しなさい! わたしがやるわ! 海老と飛子でいいわね?」
「ええ。どうもありがとう」
それからのシゲオは、月子さん専属板前と化して、美味しくて美しい手巻き寿司を作成し、大女優をいたく感動させた。
自分で好きなネタを巻く、という本来の手巻き寿司パーティーとは異なる展開にはなったけれど、ワイワイと大人数で食事をするのは楽しい。
楽しければ、お酒も進みたいところ、みんな明日も仕事がある。
流星が用意したネタと酢飯を全部食べ尽くし、手土産のシュークリームを食べ終えたところで解散となった。
のだが……。
双子ちゃんは、クリームを口の周りにつけたまま、寝落ち。彼女たちの母親である透子さんは、ビール一缶で酔っ払い、ソファーで熟睡している。
「すみません、まずはトーコを置いてきます。その間、チビたちをお願いできますか?」
透子さんを背負う流星のお願いに、月子さんはにっこり笑って、もっと楽な解決策を提示した。
「みんなに泊まってもらうのは無理だけど、ミミちゃんとナナちゃんなら、うちにお泊りさせればいいわ。起こしちゃったら、かわいそうでしょう? 朝になったら迎えに来て?」
「でも、いろいろ準備も必要だし……」
渋る流星に、シゲオが運び屋になると申し出る。
「帰るついでに、わたしが双子ちゃんのパジャマとか、歯ブラシとか、必要なもの運んで来るわ」
「ありがとう、ジョージくん。お願いできる?」
「任せてちょうだい。カワイイ天使のためなら、それくらい何てことないわ」
「というわけだから、遠慮しないで?」
「……すみません、月子さん」
「いいのよ。ハジメくんには、いつもお世話になってるんだから」
「じゃあ、よろしくお願いします」