意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「やっぱり、大勢でする食事は楽しいわねぇ」
シャワーのあとの、お肌のお手入れ、ストレッチ。
月子さんと二人、毎晩のルーチンをこなしながら、火が消えたように静けさを取り戻した部屋の様子に、寂しさを感じた。
「ですね」
「透子さんとは、初対面だったわよね? 話せたかしら?」
「いえ、あまり……」
「そう……透子さん、いつもはあんなにお酒に弱くないのよ。いまドラマの脚本を書いていて、どうやら徹夜だったらしくて」
「在宅での仕事とはいえ、大変ですよね」
「ハジメくんがいてくれるから、何とかなっているけれど、彼に彼女ができて、結婚を考えるようになったら、さすがにいまのようには頼れないでしょうね」
「そうですね……」
流星も、夫と死別した透子さんも、独身だ。
この先誰かと結婚、再婚するかもしれないし、結婚という形を取らずとも、パートナーができるかもしれない。
もしくはそうなる前に、双子たちが成長して手が掛からなくなれば、いまのような親密さは薄れ、少しずつ距離ができていくのかもしれない。
でも。
「流星さん、双子ちゃんのこと好きですし、迷惑に思ったり、イヤがったりはいないですよね?」
「ええ。ハジメくんは三人のことを家族として大事にしているわ。でも、透子さんは、彼に迷惑をかけたくないと思っている。彼女のそんな気持ちを知っているから、ハジメくんは半ば強引に、押しかけるようにして一緒に住み始めたのよ。同居を始めた当初は、それはもう大喧嘩の嵐でね……」
「そんなに?」
「透子さん、筆が乗ってくると寝食を忘れるのよ。栄養失調、過労で倒れることもしょっちゅう。ハジメくんが彼女の健康に配慮していなければ、いま頃病院のベッドで起き上がれなくなっていたかもしれないわ」
「流星さんは、優しいから。透子さんが苦労しているのに、知らんぷりなんてできないですよね」
「いっそのこと……結婚しちゃえばいいのに」
「は?」