意地悪な副社長との素直な恋の始め方
誰と、誰が結婚すればいいというのか。
目を瞬くわたしに、月子さんはにっこり笑って白々しい言い訳を平然と口にする。
「何でもないわ。独り言よ」
(ずいぶん大きな独り言で……)
「さ、わたしたちも寝ましょう。明日は早起きしなくちゃならないし、おしゃべりは明日でもできるでしょうし」
「……そうですね。寝ましょうか」
「あ! そうだわ! 偲月さん、ちょっと待って!」
寝室へ引きあげようとお互いに背を向けた途端、月子さんにくいっとパジャマ代わりのTシャツの背を引っ張られた。
「ごめんなさいね? 渡そうと思っていたものがあるの。すぐ持って来るから、そこから動かないでね?」
軽く首を傾けてそう言う月子さんは、とても朔哉のように育ち切った息子がいる年には見えない。
(ナニこのかわいさ……寝る前に、心拍数上がるんですけど)
パタパタと寝室へ駆け込んだ月子さんは、すぐに戻り、赤いリボンをかけた小さな黒い箱を差し出した。
「改めて。モデルデビュー、おめでとう! きっと、これからいいこと、いい出会いがたくさん待っていることを祈って……頑張った偲月さんへのプレゼントよ」
「プレゼントなんて、そんな……」
お世話になりっぱなしなのに、と恐縮するわたしを月子さんは「早く開けてみて!」と急かす。
「わ、これ……すごく、キレイで……変わってますね?」
箱の中に収められていたのは、フックピアス。
耳の下で揺れる長さの繊細な鎖の先には、透明な中に、赤い線状の模様が細かく入っている水晶のようなものがぶら下がっている。
「レッドルチルクォーツよ」
「こんな珍しいもの……すごく、高かったんじゃあ……?」
「値段なんか、気にしないで。偲月さんに似合うかどうかが、一番大事なんだから。レッドルチルは、ポジティブなパワーを持つとも言われているの。明日、お仕事の打ち合わせがあるんでしょう? ぜひ、お守り代わりに着けてみて?」
石の効能というよりも、月子さんに貰ったというだけで、強運を運んできてくれそうだ。
恐縮ではあるけれど、わたしのために選んでくれたというものを、突き返す方が失礼だろう。
ありがたく頂くことにした。
「ありがとうございます。明日、さっそく着けてみます」
「ふふ、気に入ってもらえて嬉しいわ。さ、今度こそ寝ましょ」
「はい! おやすみなさい」