意地悪な副社長との素直な恋の始め方
甘い笑みと共に、「さん」づけで呼ばれたが、とてつもない違和感を覚えた。
(……無理)
わたしが微妙な表情をしたからだろう。
朔哉はすぐに、言い直す。
「偲月?」
たったひと月呼ばれていなかっただけなのに、一気に懐かしい思い出や抑えていたいろんなものが溢れ出しそうになり、慌てて俯いた。
涙がこぼれないよう、目を見開き、瞬きを堪える頭上で、聞き覚えのある台詞が聞こえた。
「ポニーテールは禁止だと言ったはずだ」
(は?)
顔を上げた途端、後頭部に朔哉の手が触れたかと思うと、シゲオがまとめてくれた髪をぐしゃぐしゃにされる。
「ちょっと何すんのよっ!?」
思わずいつもの調子で噛みつくと、真顔で「禁止だ」と繰り返される。
「何で禁止なのよ? フツーにまとめてアップにしてるだけじゃない!」
「他の男がキスしたくなるかもしれないからだ」
「……え?」
予想外過ぎる理由に、耳を疑った。
「モデルの撮影時は許すが、それ以外ではうなじが見える髪型は禁止だ」