意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「そろそろ開店時間だわ。じゃあ、またなんかあったら遠慮なく言って。協力するからさ」
「ありがとうございました!」
「偲月ちゃん! 撮影は終わった?」
アイさんが出て行くのと入れ違いに、着物姿の京子ママが姿を見せる。
「はい」
「いい写真は撮れた?」
「おかげさまで、バッチリです」
「ふふ、じゃあ、コンテストで優勝したらうちのお店で祝勝会しましょ!」
「え、優勝なんて……ええと、入賞とかじゃ……?」
「最初っから弱腰なんて、ダメ! 運を引き寄せるのは、強い気持ちよ。全力でぶつかっていれば、きっと結果がついてくるわ」
「そうですね……」
(京子ママもいいモデルになりそうなんだけどな……)
そう思いながら、眉根を寄せている表情を一枚撮ると、「こら!」と叱られる。
「偲月ちゃん! わたしは撮らなくてもいいの!」
「でも、撮りたいと思ったものは、その瞬間に撮らないと後悔するので」
「もうっ! あ! そうだわ! わたしの写真なんかより、お店のホームページ用の写真、撮ってもらいたいわ。今月末に店の内装を一新するのに合わせて、更新しようと思ってたところなのよ。でも、偲月ちゃん、忙しいかしら?」
「いえ! ぜひ、やらせてください!」
自分の向き、不向き、弱味や強味を知るためにも、いまは何でも撮りたい。
「ありがとう。詳しい日程や何かは、征二と相談してから連絡するわね? わたしはお店に出るけど、偲月ちゃんとジョージくんは、ゆっくりしてってね? 征二に言っておくから、何か飲んで行けばいいわ」
「ありがとうございます。でも、このあと予定があって……」
「デート?」
「えっ!?」
「ふふ。図星ね。それなら、ここでジョージくんにキレイにしてもらってから出かけたら?」
京子ママの提案に乗っかりたいところだけれど、シゲオにはシゲオの都合があるだろうし、いくら友人でも、度々タダでプロの技を駆使してもらうのは気が引ける。
ただでさえ、シゲオには借りが山ほどあるのに。
「いいわよ? そんなメイクが落ちきった顔で、イケメンの横に並ぶなんて、わたしの美意識が許さないし?」
「え、イケメンって……」
シゲオは、わたしが誰と会う予定なのか、なぜか知っているらしい。
「じゃ、デート楽しんでね? 偲月ちゃん」