意地悪な副社長との素直な恋の始め方
京子ママが去り、静かになったスタッフルームで、シゲオはわたしを先ほどまでアイさんがいた椅子に座らせた。
「さてと……今日の偲月は、パンツではあるけれど、オーバーサイズ気味のニットはVネックの開きが深め。スニーカーじゃなく、ハイヒール。と、ここまでは、花夜さんの指導の賜物だと思うけれど……髪は、アップかポニーテールにまとめるのがいつものスタイルなのに、ハーフアップ。それに、ほっぺがほんのりピンク色。好きな人――朔哉と会う女子の兆候、そのまんまよ」
「…………」
シゲオの指摘した通り、今夜は朔哉と会う予定になっている。
マカロンの賄賂を貰ったその日のうちに、朔哉から花夜さんを通して連絡があった。
その結果、本日金曜日の夜、所長命令で食事に行くことになったのだ。
その顛末を電話で流星に話したところ、『連絡先を知っているのに直接誘わなかったのは、万が一にも断られる可能性を排除するためだろ』と言われた。
もし直接誘われたとしても、断るつもりなんてなかったけれど、迷い、場合によっては先延ばしにしようとしたかもしれない。
朔哉は、わたしの思考回路も行動パターンも読み尽くしているようだ。
正直、仕事は欲しい。
でも、朔哉と会うのは気まずい。
芽依との関係がどうなっているのかわからないのに、どんな態度で接すればいいのかわからない。
ビジネスライク、でいくには、あのキスは余計だった。
情熱的なキスで思い知らされたのは、まだ彼を好きだということ。
心も、身体も、朔哉をちっとも忘れていなかったということだ。