意地悪な副社長との素直な恋の始め方
取り敢えず、朔哉と実際会うまで、考えるのはやめようとシゲオの魔法の技を観察する。
全部やり直すには時間がかかり過ぎるため、崩れやすい部分だけをベースメイクから手直ししていく。
唯一、大きく変えたのは、キツく見られがちな印象を和らげるために、わざとタレ目に仕込んでいたアイラインだ。
シゲオは、わたしが引いたのとは真逆、目尻の上がった猫目を強調するものに変えた。
「アイラインだけで、ずいぶん印象が変わる……」
「偲月は、キツく見える目がマイナスイメージだから、いつもアイメイクでタレ目に見せようとしてるのよね?」
「うん」
「ほとんどの女子が、ついつい気になる部分を隠したりごまかしたりしちゃうんだけど、自分が思うウィークポイントって、チャームポイントになり得るのよ? コンプレックスが邪魔をして、なかなか客観的に自分自身を見られないだけってことが大半」
「……なるほど」
「そうねぇ、髪はもうちょっと上げた方がバランスがいいわね。まあ、うなじが見えないポニーテールなら、朔哉も文句は言えないでしょ」
「……だといいけど」
鼻歌を歌いながら、シゲオは軽く巻いたわたしの髪を低い位置で束ね、結び目に髪を巻き付けて、ピンで留める。
赤いリップ、きっちり引かれたアイラインと、メイクの強い印象を和らげる、ゆるふわだ。
「それにしても、朔哉がうなじフェチだったとはねぇ……。胸やお尻フェチじゃないのは、アンタを見れば一目瞭然だけど」
「ちょ、どういう意味っ!?」
「そのまんまの意味よ。で、さっきから、ずいぶんのんびりわたしとおしゃべりしてるけど、待ち合わせは何時なの?」
「え? 十九時だけど」
「じゃあ、遅刻ね」
「は?」