意地悪な副社長との素直な恋の始め方

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(どう、どうしよう、まずは、電話? でも、)


待ち合わせの店は、『SAKURA』。
走れば、五分でつく距離だ。

電話するより、行った方が早いと思い、すれ違う人が驚いて振り返る勢いで走った。
シゲオが整えてくれた髪もメイクも、多少のことでは崩れない。

息切れ、動悸、めまい、筋肉痛の予感――それらの症状に見舞われつつ、無事『SAKURA』に到着。
高級パンプスは全力疾走にも耐えうることが実証された。


(五分……五分の遅刻で、帰っちゃったなんて……ないよね?)


一見して普通の住宅にも見えるお店のドアを引き開けると、若い男性スタッフが出迎えてくれる。


「いらっしゃいませ……」

「あのっ! 待ち合わせで、その、」

「お連れ様は、すでにお見えになっています。お席へご案内いたします」

「え、と……」


名乗らずともわかるのだろうかと訝しむわたしに、彼はあっさり「本日は夕城さまに貸し切りでご予約いただいておりますので」と言う


(か、貸し切りっ!?)


『SAKURA』は、一年先の予約を取るのですら難しいと言われているくらい、人気があると聞く。
これも副社長という肩書きの為せる業なのか。


(……住む世界がちがうわ)


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