意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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前菜は、アスパラをメインにしたカラフルな一皿。
スープは、鮮やかなピンク色をしたビーツのポタージュ。
白身魚のムニエル。それから、鴨のコンフィと続き、料理の合間に食べるフランスパンがこれまた美味で、ついつい食べすぎそうになる。
気まずい雰囲気での食事になるのでは、という心配はまったくの杞憂だった。
絵画のように美しく、言葉では表現できないほど美味しい料理とワイン。朔哉の巧みな会話術で緊張や不安はいつの間にか消え、気がつけば近況を洗いざらい報告していた。
モデルの仕事が、思った以上に大変で、でも楽しいのだとか。
花夜さんの厳しいファッションチェックに毎回ダメ出しされて凹むのだとか。
ヨガやウォーキングなどのレッスンで、自分の身体と向き合うようになったのだとか。
コウちゃんの助手として訪れた、鄙びた山村の温泉宿がとてもステキだったことも。月子さんにくっついて訪れる撮影現場で、普段の彼女とのギャップに、毎度驚かされることも――。
自分ばかり話している気がして、途中何度か話すのをやめようかと思った。
けれど、その度に朔哉に質問をぶつけられたり、次の話題へさりげなく誘導されたりして、やめられなかった。
朔哉と会わずにいた間、何をしていたのか、聞いてほしかった。
わたしが選んだ道を、ヨロヨロしながらではあっても、ちゃんと進んでいるのだと知ってほしかった。
誰かに、こんなに自分のことを話したのは、初めてだ。
母親にでさえ、話した記憶がない。
「……わたし、喋りすぎ?」
「そんなことはない。これから口説こうとしている相手を知るのは、大事なことだ」
「じゃあ、もう十分?」
「いや。知れば知るほど、もっと知りたくなる」
「…………」
じっと見つめられ、じわじわと頬が熱くなる気配を感じて、通用しないとわかっている言い訳をする。
「……ちょっと、飲み過ぎたかも」
「多少頬は赤いものの、そんなに酔っているようには見えないが?」
「そう?」
「水をもらおうか?」
「ううん。大丈夫」
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
デザートの前、数種類のチーズがサーブされ、ドライフルーツやハチミツ、ジャムなどと一緒に味わえばお腹は一杯。
これ以上は入らない。
でも、デザートは別腹だ。
濃厚なチョコレートムースが、舌の上で蕩ける感触にうっとりしてしまう。
朔哉は、デザートを断って、先にコーヒーを飲んでいるが、なんてもったいなことをするのだと思った。