意地悪な副社長との素直な恋の始め方

ソツなくあしらうのにも慣れた様子の朔哉にモヤモヤした。

容姿端麗、頭脳明晰、経済力もあるとなれば、いまも昔も、言い寄る女性は数えきれないほどいるだろう。
仕事でも、プライベートでも、女性とこういうデートをするのが、初めてのわけがない。


(芽依とだって……)


きっと、いつもこんなデートをしていたのだと思うと、美味しい料理で急上昇していた幸せな気分も急降下する。

丁重に、ひとりの大人の女性として扱われるのは、それなりにいい気分だった。

でも、果たしてそれが嬉しいかと言われると……。


(こんな風に、なりたかったわけじゃない……)


さりげない気遣い、巧みな会話。踏み込み過ぎず、かといって素っ気ないわけでもない絶妙な距離を保ちながら、ほんのり期待を抱かせる――そんな彼の術中にうかうか嵌ってしまった自分が、腹立たしい。

その気になれば、朔哉は完璧なイケメンを装える。


(わたしが会いたかったのは……わたしがしたかったデートは……)


じわりと滲んだ涙を散らすように瞬きを繰り返し、二度と朔哉と料理をシェアなんかしない、とひとり意固地になってムースをスプーン山盛りに掬い、バクバクと勢いよく平らげる。

これは、デートではなく接待だ、なんて自分に言い聞かせたことなど、すっかり忘れていた。
苛立ちと哀しみをチョコレートで塗りつぶすには、一皿では足りない。


(デザートって、おかわりできる? 朔哉の分、残ってないかな……)


空になった器を見下ろし、そんなことを考えていたら、朔哉が唐突な問いを投げかけた。


「偲月……もしかして、酔ってるのか?」

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