意地悪な副社長との素直な恋の始め方


「……酔ってない」

「酔ってるんだな」


溜息を吐く朔哉を睨み、きっぱり宣言する。


「酔ってないってば!」

「…………」


叫んだ拍子に、クラリとめまいを感じ、内心ギクリとする。


(こんなところで酔いつぶれるわけにはいかない。コーヒーを飲めば少しは酔いも醒めるかも……)


締めくくりのコーヒーで少し冷静さを取り戻そうと、何気なくテーブルに置かれたソーサーを見下ろして、ずっと無意識下で引っかかっていたことに気づいた。


「ねえ、今日のコースは『赤』がテーマだったの?」


今夜出された料理には、素材に限らず、花やソース、器など、何かしら「赤」や「ピンク」といった色が印象的に散りばめられていた。

特別な意味があるとは思っていなかったけれど、目の前にある白地に紅色の模様が施された華やかなデザインのカップ&ソーサーが、単なる偶然ではないと証明している。


「予約する際に、音無シェフに偲月のイメージを伝えたから、それを基に考えてくれたんだろう」

「え……わ、たし? なんで?」

「偲月に似合う色だからだ」

「赤が?」


リップでは赤系を使うことが多いけれど、服も身の周りのものも「赤」を選ぶことは滅多になかった。
当然、似合う色だと思ったこともない。


「赤い服も似合うと思うが、普段遣いには強すぎるし、『avanzare』のラインナップではパーティー用ドレスにしかなかったから、買わなかったんだ。でも、アクセサリーなら取り入れやすいだろう?」


朔哉は自分の耳を指さして、「思った通り、似合っている」と言った。

今日も、月子さんがプレゼントしてくれたレッドルチルクォーツのピアスをしていた。


「先日も、今日も着けていてくれるということは、気に入ってくれたんだな」

「そうだけど、でも、あの、これ……月子さんがくれたんだけど……?」

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