意地悪な副社長との素直な恋の始め方


朔哉はちょっと言いにくそうな表情で、ぼそぼそと経緯を説明する。


「俺からだとわかると受け取ってもらえないだろうと思って、母さんから渡してくれるよう頼んだ」

「え」

(何だか似たような話を最近どこかで聞いたような……?)


朔哉らしくもない気弱な行動に戸惑いつつも、おざなりではなく、ちゃんとわたしのことを考えて選んでくれたのが嬉しい。

嬉しすぎて、黙っていられなかった。


「……ありがとう。すごく、嬉しい」


いつも、なかなか素直に言えない言葉がすんなり口をついて出たのは、やっぱり酔っているせいかもしれない。

でも、ほっとしたように笑う朔哉を見たら、もっとたくさん言えばよかったと思った。


(朔哉には、いろいろしてもらっているのに、いままできちんとお礼を言ったこと、ない……)


マカロンのことも、いま着ている『avanzare』の服を買ってもらった時も、そうだ。

タイミングが、とか、大げさに喜んだら、次を催促していると思われるんじゃないかとか、そんなつまらないことを気にせず、ちゃんと伝えればよかったのに。

そうしたら、もっと朔哉の嬉しそうな顔を見られたのだと思うと、いまさらでもいいから伝えたくなった。


「あの、マカロン……ありがとう。オリジナルのデザインまで頼んでくれて、しかも百個分も……。あと、これも! 『avanzare』の服も、ありがとう。朔哉が買ったものだから、勝手に持っていくのはどうかと思ってたから。わざわざ送ってくれて、すごく助かった。秋冬もののモデルをするのにも、参考になるし。中には、売り切れてるものとかもあるし……」


上手には伝えられなくても、嬉しいこと、感謝していることだけはわかって欲しくて、言葉を連ねていたら、朔哉が眉をひそめて呟いた。


「……送った? いつ?」

「え? いまのところに引っ越して間もなくだけど? いきなり段ボール箱が大量に届いて、びっくりしたナツから電話が……」

「…………」

< 375 / 557 >

この作品をシェア

pagetop