意地悪な副社長との素直な恋の始め方


朔哉は、なぜか険しい表情で黙り込んでしまった。


「朔哉? ねえ、どうかした? やっぱり返せとか……」

「いや。返されても困る。服は、偲月に似合うものを選んでもらったから、全部偲月のものだ。自由にしてくれて構わない。モデルの仕事で役に立てたなら、嬉しいよ。……そろそろ出よう」

「う、うん、えと、お会計は……」


当たり前のように奢ってもらうのは気が引けて、鞄からお財布を取り出そうとしたら、「もう済んでいる。誘っておきながら、支払わせたりはしない」と言われる。


「……ごちそうさま、です」

「マカロンだけでなく、チョコレ―トムースも予約できるようにしようか?」

「えっ!? いや、それはさすがに……」

「じゃあ、また食べに来よう」


それは、どういう意味なのか。
単なる社交辞令なのか、それとも……。


(ダメ。酔った頭で考えちゃダメ。全部都合のいいように解釈して、勢いで何かしでかさないとも限らない……)


必死に自制心をかき集め、チョコレートムースの誘惑から逃れようとしていたら、ドアを開けた朔哉が、手を絡めてきた。

どうしてそんなことをするのかと見上げれば、「足元が覚束ないだろう?」と指摘される。


「そんなこと、ない」

「ある」

「ない」

「酔っ払いほど、自分は酔っていないと言い張る」

「酔ってない。ちょっと気分がいいだけ」

「……階段から落ちて、怪我をしたくなければ、大人しくエスコートされていろ」

「そんな必要な、」


い、と言えなかった。

不意打ちで見舞われたキスに、世界がぐるりと一回転する。


「必要あるだろ?」

「な、」

「担がれたいのか?」


真顔で問われ、首を振った。


「……イイエ」

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