意地悪な副社長との素直な恋の始め方
意外にも、答えはすぐに返って来た。
「俺の部屋だ」
声の主はスウェットのズボンを穿いただけで、上半身は裸。
ほどよくついた筋肉。濡れた髪。朝だからか、若干目力は弱めだが、それがまた色っぽい。
どこをどう切り撮ってもイケメン以外の何者でもない……。
「……さ、くや」
この状況を呑み込めず、パニック一歩手前のわたしの表情がよほどおかしかったのか、目尻に笑い皺が刻まれた。
「おはよう」
「お……はよ」
「シャワーを使うなら、着替えはクローゼットにある」
「う、うん。あ、ありがとう」
濡れた髪を拭いながら、ベッドサイドに置かれていたスマホをチェックする彼の背中をぼんやり見つめる頭に、次々と疑問が浮かぶ。
どうして、朔哉の部屋にいるのか。
どうして、朔哉のベッドで熟睡していたのか。
どうして、男物のTシャツ一枚という心もとない恰好で寝ていたのか。
昨夜は……何もせずに、朝を迎えたのか。
聞きたいこと、確かめたいことは山ほどある。
が、まずは寝起きでまともに働かない頭をどうにかしなくては。
ベッドから滑り降り、ウォークインクローゼットへ足を踏み入れ、目を疑った。
(え。なんで……?)
かつて、わたしの服が占めていたスペースには、新たな女性用の衣服が大量に補充されていた。
(もしかして……芽依、の?)
恐る恐る一枚引っ張り出してタグを見てみると……。
(『avanzare』?)
ざっと見た限り、そこにある服はすべて『avanzare』のものだった。
しかも、つい先日撮影で着た秋冬ものも混ざっているようだ。
芽依は『avanzare』の服を着ない、とは言い切れないけれど、彼女の趣味はもう少しフェミニン寄りだ。
(どういう……こと? 下着、……も、わたしのサイズ?)
新品の下着も何点かあり、サイズはわたしと同じ。
芽依は、わたしよりもワンサイズ、いやツーサイズは胸が大きい。