意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「ちなみに、下着はシンのパートナーの作品だ。基本的にオーダーメイドでしか作らない、ランジェリーショップを経営している。知り合いのよしみでサンプルをもらったんだ」
「もしかして、前のも?」
「ああ。できれば、きちんと採寸して作りたいと言っていたから、そのうち彼女の店に連れて行く」
「え、や、そんなのいいよ! だって、すごく高そうだし……」
繊細なレースで作られたブラジャーやショーツは、わたしが普段使いしている下着を軽く五枚くらいは買える値段がしそうだ。
「合わない下着を着けていると身体の線が崩れると言っていたぞ?」
「そ、そうかもしれないけど、でも」
「彼女とは、この先『Claire』のドレスを展開するにあたり、タイアップする予定だ。モデルとして、今後自分が関わる作品に慣れ親しんでおくのは、仕事の一環だ」
「でも、」
「そんなに気になるなら、仕事で返してくれればいい」
「え、それって……下着のモデルもするってこと?」
モデルとして、自分の身体を売り物にしている以上、必要とあれば肌をあらわにするのも仕事のうちだ。
けれど、それが下着となると……。
(それが仕事と言われれば、やるしかないんだけど。でも……)
プロにあるまじきことかもしれないが、ちょっと二の足を踏んでしまう。
そう思ったら、朔哉にバッサリ「無理だ」と言われた。
しかも、何を馬鹿なことを言っているのだと言わんばかりの形相で睨まれる。
「む、無理って……やったこともないのに、決めつけなくたっていいじゃない!」
「まさか、やりたいのか?」
「そういうわけじゃないけど」
進んでやりたいと思っているわけじゃないけれど、頭ごなしに無理だと言われると、なんだか面白くない。
何をもってして無理と言うのか、その原因を探ろうと自らの胸元を見下ろし……。
(胸のサイズが足りないって言いたいの? そりゃ、谷間とか……思い切り寄せないとできないけど)
平均より、やや小さめな胸は、服のモデルをする分にはちょうどいいと花夜さんや中野さんに言われていたけれど、下着のモデルとなると物足りないのかもしれない。
(もしかして、朔哉も本当は……物足りないと思ってるとか)