意地悪な副社長との素直な恋の始め方
延々と叱られてもしかたないと思っていたのに、意外なお許しをいただいて、きょとんとしてしまった。
「酔った偲月は、なかなか興味深かった」
「え、ちょ、どういうこと? わたし、何かした?」
とんでもないことを言ったりしたりしたのではないかと思うと、冷や汗が背筋を流れ落ちる。
「…………」
「朔哉!」
「…………」
「ちょっと、何とか言ってよ!」
朔哉は無言で、思わせぶりに笑っただけで、話題を変える。
「さっさと食べろ。あと十分で出る」
「十分もあるなら、教えてくれてもいいじゃない!」
「そんなに知りたいなら、土曜日」
「え?」
「十九時。駅前の時計塔で」
「…………」
それは、あの日わたしが決めた待ち合わせと同じ時刻と場所だった。
「な、んで……」
朔哉の意図がわからず、困惑する。
わたしと目を合わせた朔哉は、静かに、しかし迷いのない口調で言った。。
「やり直す」
「え……」
「あの夜から、もう一度」
「でも、あれは、具合が悪かったんでしょ? もういいよ。気にすることなんかな……」
待ち合わせていたのに、すっぽかした形になったことを気にしているのだろうか。
事情はわかっているし、もういいのだと言おうとしたが、否定された。
「ちがう」
「……?」
「最初から、やり直したいんだ」
「最初?」
ますます混乱し、戸惑うわたしを見据え、朔哉は強い意思の感じられる声で自分の望みを告げた。
「俺と偲月が兄妹ではなくなった、あの夜からやり直したい」