意地悪な副社長との素直な恋の始め方
勘と理解力に長けたシゲオには、朔哉の意図するところが簡単にわかるらしい。
大きく何度も頷いたのち、わたしの鼻先に指を突き付けて命じた。
「偲月。これが最初で最後のチャンスと思って、素直になりなさい。不安な気持ちも、あの性悪女……芽依に対する気持ちも、ぜーんぶぶちまけるのよ?」
「え。な、んで、芽依のこと……」
素直になれというアドバイスはもっともだけれど、芽依の話を持ち出されて驚く。
アレコレ相談しても、朔哉が好きだったのは「芽依」だと話した覚えはなかった。
「ちょっとでも事情を知っていたら、すぐにわかるわよ。あからさまなんだもの。裏を返せば。そんな風にならざるを得ないほど、不利な立場だと自覚しているってことね。だから、アンタは素直に自分の気持ちを朔哉に伝えて、彼の気持ちを受け止めればいいの。隠しごともごまかしもナシで、真正面から向き合うの。いいわね?」
いままでのわたしなら、即座に「無理」と言うところだ。
朔哉と真正面から向き合うなんて、いまさらな気もするし、何もかもを打ち明けて、もし拒絶されたり、軽蔑されたり、呆れられたりしたらと思うと、怖い。
でも、カメラを仕事にし、モデルに挑戦し、月子さんの自伝の写真を撮ろうと決心したのは、いつでも楽な方へ逃げる自分のままではいたくなかったからだ。
「……できる、かな」
「いまのアンタなら、できるわよ。だって……すごくいい顔してるもの」
疑わしいという目を向けると、シゲオはにっこり笑った。
「イイ恋をしている女子はね、みんなキレイなの。だから、すっぴんでも十分輝いている。でも、自分では自分のことはなかなかわからないでしょ? メイクは、そんな自信がない自分を励ますための、ちょっとした魔法なのよ」
シゲオの手にかかると、どうしてみんなキレイになれるのか、わかった気がした。
彼のメイクは、そのひとのコンプレックスをごまかしたり、隠したりするんじゃない。
そのひとが持っている輝きでコンプレックスを打ち消す手助けをして、背中を押してくれる。
鋭い観察眼で、愛の混じった毒舌で、そして、器用な魔法の手でその人らしい美しさを作り出してくれる。
「シゲオって……時々、イイコト言うよね」