意地悪な副社長との素直な恋の始め方
もみ合い、じゃれ合っていると、「イチャついてんじゃねーぞ」という声がした。
「流星さん」
「あら、ハジメ」
カメラや音声の機材を調整していた流星は、ペットボトルのお茶を手にしている。
「とりあえず休憩になった。飲むか?」
「ありがとう、いただくわ。休憩って、どういうこと? さっきしたばかりでしょ? どうしたの?」
ペットボトルを受け取ったシゲオの問いかけに、流星は苦い表情で溜息を吐いた。
「NGが続けば、スタッフの集中力も切れる。月子さんがこんなにNGを出すなんて、初めてだぜ」
彼の視線の先には、流星監督と話す月子さんの姿があった。
朝から始まった撮影では、月子さんが救急搬送されて入院、退院するまでを撮る予定で、順調にいけばお昼前には終わるだろうと思われていた。
しかし、正午を過ぎたいまも撮影が終わる様子はない。
機材トラブルなどもあって、予定より遅れて撮影が始まったことも多少は影響しているが、監督が途中で止めたり、月子さん本人がやり直しを求めたり。なかなかOKが出ないのが、長引いている最大の原因だという。
いくら大女優でも、人間だ。
調子の善し悪しはそれなりにあるだろうし、素晴らしい演技力の持ち主だからこそ、監督も本人も妥協できないのかもしれない。
そう思ったが、シゲオは眉根を寄せて、楽観的なわたしの見方を戒める。
「やっぱり、体調が悪いんじゃないかしら」
「え?」
「メイクした時、わざわざ病人らしくする必要がないくらい、顔色が悪かったのよね。月子さん」
心臓が、ドクンと大きく跳ねた。
月子さんが何らかの病を患っていることは聞いていたけれど、具体的な病名や状態は聞いていない。
クランクアップしたあとで、手術を受けて治療に専念すると話していたから、まだ猶予はあるのだろうと思っていたけれど……。
(本当は、無理をしている……?)