意地悪な副社長との素直な恋の始め方
月子さん演じる女優である主人公は、青年実業家である恋人が、かつての婚約者と連絡を取り合っていることを疑う中、交通事故に遭い、病院へ搬送される。
幸いにして骨折程度で済んだものの、恋人と連絡がついたのは翌日。
海外出張中だったという彼の言葉を一度は信じたものの、病院の売店で暇潰しに雑誌でも買おうとして、彼と元婚約者である社長令嬢の密会記事が週刊誌に掲載されているのを発見する――。
「これって……」
かなり脚色してはあるけれど、以前聞かされた離婚のきっかけとなった話を思い出させるストーリーだ。
助けを求めて架けた電話に、芽依が出た時の月子さんの気持ちを思うと――その時味わった感情を女優として演じなくてはならない月子さんを思うと、胸が痛む。
流星も、ある程度は月子さんの過去を知っているようで、眉根を寄せて溜息を吐いた。
「今回の映画は、月子さんの自伝的な要素を取り入れている。もちろん大幅に脚色してあるし、七割はフィクションだと本人も言ってたけど……過去を思い出さずにはいられないシーンは、かなりある」
「そうねぇ……過去の自分を演じ、その時味わった苦しみや痛みを再現するのは楽じゃないわよね」
「ああ……。どうやら、やっぱりダメそうだな」
流星の視線の先では、スタッフたちが機材を片付け始めていた。
道具を担いだスタッフの一人が、「今日の撮影は中止。リスケだってさ」と流星に声をかける。
「月子さん……」
監督やスタッフに何度も頭を下げながら、マネージャーに付き添われて控室へと引き上げていく月子さんの背は、いつになく小さく、脆く見えた。
「偲月。アンタ、夜まで予定はないんでしょ? 月子さんと一緒に帰りなさいよ」
「う、うん」
言われなくとも、そうするつもりでいた。
いまの月子さんをひとりにするのは心配だ。
「俺も、あとで何か差し入れでも持って寄る」
「うん」