意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「そんなことっ! 月子さんは、情けなくなんて、ないですっ!」
「だったら、どうかもう一度だけ、朔哉に……素直になるチャンスを与えてくれないかしら?」
「…………」
それは、わたし自身に素直になるチャンスを与えるのと同じことだった。
「もしも、まだ朔哉のことを好きでいてくれるなら、だけど」
ありのままの気持ちを打ち明けてくれた月子さんに、嘘は吐きたくなかった。
素直になりたくて、なれずにいた幼く、臆病な自分は、卒業したかった。
「……好き、です。朔哉のこと……嫌いになんて、なれません。この先、朔哉以上に好きになれるひとは、きっといないと思います」
「そう。よかった……」
ふわりと笑った月子さんは、二人きりだというのに、内緒話をするように声を潜めて訊ねる。
「ね、あの子に、一つくらいは、デートのヒントをあげてもいい?」
「……いいですよ」
「どんなプランを立てていたの?」
「ええと、カジュアルダイニングでご飯を食べて、そこから歩いて十五分のデートスポットにもなってるライトアップされた公園を通って、観覧車に……」
「観覧車でキス! いいわねぇ……すごく、ロマンチック。ヒントは観覧車にしましょ」
「え、いや、別にキスしなくても……」
月子さんはスマホで観覧車を検索し、「夜景も見えるし、密室だし、夜ならひと目も気にならないし、最適だわぁ」と満足そうに頷く。
そのままの勢いで、朔哉にメッセージを送ったようだ。
しかし、なぜか顔をしかめている。
「どうかしたんですか?」
「え? ううん、何でもないわ。中止になった撮影のリスケの連絡。来週までに、気持ちを立て直して、今度こそNGを出さないようにしないとね」
にっこり笑う月子さんは、さっきよりは幾分元気そうに見えるが、これ以上は食べられそうにないとアップルパイを片付けた。
普段の彼女なら、ワンホールどころかツーホールは確実に平らげる。