意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「マネージャーにも連絡しておくか」
「うん」
降りたばかりのエレベーターに再び乗り込み、月子さんの部屋に舞い戻る。
流星がインターフォンを鳴らし、応答を待つ間に、マネージャーに連絡しようとしたが運転中なのか、応答できない旨のアナウンスが流れる。
一旦諦め、開くはずのドアが一向に開かないことに流星と顔を見合わせた。
「風呂?」
「それはないと思うけど……」
「電話してみるか」
流星が月子さんのスマホに電話を架けるが応答はない。
「合鍵は?」
表情を険しくした流星に訊ねられ、首を振る。
居候していた時に貰った鍵は、解消した時点で返していた。
「こういう時のために、透子が合鍵を預かってる。偲月は、念のため朔哉に連絡しろ。救急搬送された先で、家族の同意か同席が必要になるかもしれない」
「えっ」
「早く!」
まさか救急車を呼ぶような事態になるなんて思ってもいなくて、頭が真っ白になりかけたが、流星に急かされ、慌ててスマホを取り出す。
震える手で、朔哉のプライベート用の番号に架けるが、なかなか繋がらない。
諦めて社用の番号に架けたところで、透子さんが駆けつけ、開錠してくれた。
「月子さん、どうしたの?」
「返事がない。マネージャーに連絡してくれ」
「わかった」
流星の後に続いてリビングへ向かうと、ソファにぐったりと横たわる月子さんがいた。
「つ、月子さん!」
流星は、月子さんの傍らにひざまずくと、呼吸を確認し、脈を測りながら救急車を要請する。
その間に、透子さんはあらかじめ月子さんに頼まれていたのか、寝室から保険証や病歴をまとめた書類などが入ったファイルを探し出していた。
何もできずに立ち尽くすわたしを見上げた流星が、「朔哉は?」と訊く。
「あ」
ハッとして手にしていたスマホを見れば、いつの間にか通話状態になっている。
慌てて呼びかけた。
「も、もしもし朔哉っ!?」
『……偲月ちゃん?』
「え……」
電話の向こうから聞こえて来たのは、予想外の声だった。