意地悪な副社長との素直な恋の始め方
我慢と忍耐のリミット
***


時折聞こえる機械音、どこか遠くで鳴っている電話の呼び出し音。
煌々とした明かりに照らされた無機質な白い病院の廊下は、朔哉がわたしを庇って怪我をして、立見先生に連れられて来た日と変わっていない。

けれど、一生慣れることなどできないだろう。



月子さんは、彼女のかかりつけである立見総合病院へ搬送された。

診断は、ストレスと過労。
数日間、入院するよう勧められたが、持病の急激な悪化によるものではなかったようだ。

準備ができ次第、病室へ移動になるという月子さんを処置室前で待ちながら、あとでもう一度朔哉に連絡しなくてはと思う。

月子さんは、病気のことを夕城社長や朔哉には知らせてほしくないと思っているようだけれど、何も知らされなかったら、きっと傷つく。
流星も、同じことを考えていたらしく、眉根を寄せてわたしに確認する。


「偲月、朔哉に連絡つかなかったんだよな? 喧嘩中とかじゃねーんだよな?」

「うん」

「透子が連絡が必要なところへは、電話してると思うから、どこかのルートから連絡が行くだろうけど……」


双子ちゃんたちを置いてはいけないので、透子さんは連絡係として自宅で待機してくれていた。
必要な連絡先も、あらかじめ月子さんから預かっているというので、すべてお任せしてある。


「あんまり来るのが遅いようなら、もう一度連絡した方がいいかもな」

「うん、でも……」


わたしからの連絡だとわかると、芽依が妨害するのではないか。
そんな懸念が先に立つ。


「夕城社長」


流星の呟きに顔を上げると、青ざめ、強張った表情の夕城社長が廊下を足早にやって来るのが見えた。

いつもの紳士然とした姿は見る影もなく、髪も乱れ、ネクタイも解けかけた姿のまま、肩で息をしている。


「つ、つき、つきこさんはっ!?」

「大事ないそうです。処置はもう終わっていて、いま病室へ移るのを待っているところです」

「原因は?」

「過労とストレスだそうです」

「……それだけ?」

「詳しい話は、あとで本人と担当医からお聞きになった方がいいかと」


夕城社長の問いかけに、流星は明言を避けたが、「過労とストレス以外の原因はない」と断言しないことが、それ以外の何かがあるという答えになる。

もしかしたら、夕城社長は月子さんの持病について、知っていたのかもしれない。
取り乱すことなく、「そうだね」と呟いた。

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