意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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夕城社長が現れて間もなく、月子さんは処置室から最上階の個室フロアへ移された。
トイレとバスルームが完備された個室には、ソファーと簡易ベッドがあり、付き添いも泊まれる仕様。
当然のごとく、「僕が泊まるから!」と夕城社長。
その頃にはマネージャーも病院に到着していたが、テコでも動かなさそうな夕城社長にあっさり降参。「お願いします」と言って、各方面への連絡やスケジュール調整のため、慌ただしく病室を出て行った。
「今日の撮影は、かなりのストレスがかかっていたから、そのせいだろうって……連絡をくれたマネージャーは言ってたけど、そんなに大変だったの?」
「え? ああ、まあ……」
問い質す夕城社長に、流星は言葉を濁す。
「あの」
本人の許可なく話すのは、どうかと思ったけれど、もしかしたらこれがきっかけで、月子さんの後悔が少しでも晴れるかもしれない。
「今日の撮影、事故に遭って入院中、恋人が元婚約者と密会しているのが発覚して、破局を迎える……というシーンだったんです」
「…………」
夕城社長は、そのシーンが、自分と月子さんの破局と重なることに気づいたのだろう。絶句した。
「今回の映画は、月子さんの自伝的要素を取り入れた脚本になっているそうです。もちろん、かなり脚色されていて、フィクションかノンフィクションかと言われれば、フィクションだって言ってました。でも、月子さんにとっては現実に経験した感情をなぞる作業になるんだと思います。今日の撮影、月子さんは彼女の女優人生で最も多いNGを出して、それでも結局OKが出せずに、撮影そのものが中止になったんです」