意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「それは……僕の、せいだね」
沈痛な面持ちで呟く夕城社長に、責めているのではないと慌ててフォローする。
「いえ、そういうことじゃなくて! 月子さん、後悔してるって言ってました」
「後悔?」
「素直になれずに、自分の気持ちをちゃんと伝えないまま、離婚してしまった。夕城社長の気持ちを確かめずに、逃げ出してしまったって……。過去に囚われることなく、前だけを見ている生きている。そんな風に見えるのは、そうであろうと必死に頑張っているからだと思いませんか?」
月子さんは、夕城社長を信頼できないと言ったけれど、それは裏を返せば、信頼したいと思っているということ。
最初から、信じたいと思っていなければ、何とも思わないはずだ。
何かを言いかけ、一度口を引き結んだ夕城社長は目を瞬き、力なく微笑んだ。
「そう、だね。月子さんは、素直じゃないからね。わかりにくい人なんだ」
掠れた声で呟くと、ベッドの上に力なく投げ出されている小さな手を優しく擦る。
その仕草には、元妻への同情や心配以上の気持ちが込められているように見えた。
夕城社長は、優しい人だ。
でも、わたしの母が倒れたと聞いても、こんな風に焦って駆けつけたりはしないだろうし、わたしと朔哉の婚約がなければ二度と顔を合わせることもなかったくらい、すっかり縁が切れている。夕城社長に連絡が行くこと自体ないだろう。
「それじゃあ……明日、また来ます」
できれば、わたしも泊まりたかったけれど、夕城社長と月子さん、二人きりで話したいこともあるかもしれないと思い、遠慮した。
「ありがとう、偲月ちゃん。流星くんも。本当に……お世話になったね。相沢さんにもよろしくお伝えしてほしい」
「とんでもないです。こちらこそ、いつも透子とチビこみで月子さんにお世話になっているんですから、お互いさまですよ」
明日の朝、入院生活に必要なものを持って来ることを約束し、病室のドアを開ける。
流星に続いて廊下に出ようとして、立ち止まった彼にぶつかりそうになった。
「いまごろかよ」
「何が?」