意地悪な副社長との素直な恋の始め方
夕城社長が庇ってくれたけれど、朔哉は納得できないという表情のままだ。
月子さんが倒れたと聞いて、驚き、混乱し、冷静さを欠くのも当然だ。
何も知らずに仕事をしていた自分を責める気持ちから、八つ当たりのように誰かを責めずにはいられないのもわかる。
でも、わたしの言葉より、芽依の言葉を信じ、耳を貸そうとしない朔哉の態度に、やっぱりと思う気持ちと、しかたがないのだと思う気持ちがせめぎ合う。
ないがしろにされているわけじゃない。
憎まれているわけでもない。
好いてくれているのだとわかっている。
彼の中で、優先順位が変わらないのも、長年の習慣だからしかたのないことで。
わたしを責めることはできても、芽依を責められないのも、そういう扱いなのだからしかたのないことで。
ありのままの感情をぶつけられるのは、受け止めてもらえると思っているからで。
ただ、それを受け入れる余裕がわたしにはないから、いちいち喜んだり落ち込んだり。大きな感情の波にもみくちゃにされて、すぐに自分の立ち位置も、行き先も見失うのだろう。
でも、わかってもらえない痛みや苦しみに、慣れることなどできなさそうだ。
身体が、気づかぬうちに疲弊しているように。
心も、気づかぬうちに疲弊しているのかもしれない。
これまでは、どうせ言っても信じてもらえないと黙って、やり過ごしてきた。
聞く耳を持たない相手には、いくら訴えたところで無駄だから。
どうでもいい相手なら、それでもいい。
わかってもらいたいなんて、思わない。
でも、わかってほしい人に、わかってもらえないのが、こんなに苦しいだなんて知らなかった。
いつか、真実はあきらかになると思っていても。
いつか、ちゃんとわかってくれると思っていても。
本当にその「いつか」が来るかどうかなんて、誰にもわからない。
いくら好きでも、スイーツを大量に食べ続ければ、健康を損ねてしまうように。
好きで居続けることで、心を損ねてしまうこともあるのかもしれない。
好きで。
好きすぎて。
だから、余計に苦しいのかもしれない。
だから、壊れないように、柔らかな気持ちで覆い、大事にしていたものを放り出したくなったのかもしれない。
「朔哉は……わたしの言葉を信じたくないだけでしょ」