意地悪な副社長との素直な恋の始め方
一度口にしてしまえば、もう抑えきれなかった。
「そんなことは言ってない!」
「言ってる!」
「芽依が……嘘を吐いているとでも? 何を根拠に? そんな真似をする必要が……」
「芽依が何を考えているのかは、本人にしかわからない。でも、わたしは電話した。最初は、プライベートの番号に。でも、繋がらなかったから、社用の番号に電話した。そしたら、芽依が出て、会議中だから架け直してと言われて切られたの。事情を説明する暇もなかった。疑うなら、着信履歴を確かめたら?」
「そんなはずは、」
なおも否定しようとした朔哉に、流星が「その場にいた俺が、証言する」と言い放った。
「出かけるところだった偲月は、俺とエントランスで会って、やっぱり月子さんが心配だからと引き返した。インターフォンを鳴らしても応答がなく、救急搬送の可能性があると判断し、家族であるおまえの同意が必要になると思って、俺が連絡させたんだ。でも、一度目では繋がらず、救急車を待つ間、リビングでもう一度電話を架け、繋がったものの、切られた。その時、偲月は『芽依』と呼びかけていた」
「…………」
「その後は、移動、病院内と通話できる状態じゃなかった。透子――俺の義姉から、マネージャー、そこから夕城社長、おまえにも連絡がつくだろうから、もう一度架け直すことはしなかった」
「…………」
「待ち合わせは、何時に変更したんだ?」
「……二十時半だ」
「あの時点で、おまえからの連絡に偲月は気づいてなかった。月子さんが倒れたのは、十八時過ぎだ。月子さんの様子が心配で、引き返すくらいなんだぞ? 二十時半の待ち合わせなら、そんなに早く出かけたりしなかったはずだ」
朔哉は、流星の説明でわたしが嘘を言っていないとわかったのだろう。
反論しなかった。
しん、と静まり返った病室に、小さな声が落ちる。
「……んな、さい」
それまで黙って事の成り行きを傍観していた芽依が、震えながら口を開く。
「ごめん、なさい……偲月ちゃんからの電話……わたしが、切ったの」