意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「そういうことじゃないんだよ、芽依。誰も、誰かの代わりになんかなれないんだ。朔哉にとって、芽依は芽依で、偲月ちゃんは偲月ちゃんだ。妹だとか、他人だとか、そういうことは関係ないんだよ」
泣きながら訴える芽依に縋られ、言葉に詰まる朔哉の代わりに、夕城社長が穏やかな声で彼女を宥める。
「そんなの嘘! 誰だって、本物が手に入るなら、偽物はいらないでしょ? お父さんだって、そうだったじゃない! その人より、お母さんを選んだでしょ?」
「それとこれとは……」
「一緒よ。だって、わたしの嘘を信じたじゃない」
「あれは、」
「月子さんからの電話。知らない人からの電話だったって言った、わたしの嘘をあっさり信じたのは、その方が都合がよかったからでしょ?」
(嘘……? 怪我をした月子さんが架けた電話……芽依は、夕城社長に月子さんからだったって言わなかったってこと?)
信じがたい事実に驚いているのは、わたしだけではない。
朔哉も、目を見開いている。
夕城社長は、驚いているのか、それとも悲しんでいるのか。
複雑な表情で、芽依を見つめている。
再び、その場に落ちた重苦しい沈黙を破ったのは、小さいけれど凛とした声だった。
「……信じて、なかったわよ」