意地悪な副社長との素直な恋の始め方


ベッドの上で、月子さんが大きな瞳をぱっちり開けて、こちらを見つめていた。


「月子さんっ! 大丈夫っ!? どこか痛いとか、具合が悪いところは?」 


身を乗り出し、鼻先がくっつくくらいに覗き込む夕城社長に、月子さんは顔をしかめる。


「もう、鬱陶しいわねぇ……そんなに顔を近づけないでよ」

「ご、ごめん」

「しかも、ここは病院なのに、騒がしいんだから……」

「ごめんね? うるさかったよね? すぐに出て行かせるから」

「なんで自分は除外してるのよ」

「僕はここに泊まるからだよ」


当たり前のように言う夕城社長に、月子さんは眉を引き上げ、軽く睨む。


「誰の許可を得てるのよ?」

「主治医の許可は得ているよ」

「でも、わたしは許可してないわ」

「うん、そうだね。でも、月子さんの許可は必要ないから」

「あるわよ!」

「ないよ。だって、許可してくれなくても、僕は泊まるから」

「…………」


はあ、と呆れたように息を吐いた月子さんが、細い腕を差し出す。


「起こしてちょうだい」

「でも、まだ安静に……」

「起こして!」

「……ちょっとだけだよ?」


顔をしかめつつも、ベッドを操作し、上体を起こせるようにした夕城社長は、「何か飲む? それとも、何か食べたい?」と世話を焼こうとする。

月子さんは、そんな彼を「黙れ」と軽く睨みつけ、芽依に呼びかけた。


「芽依さん」


ビクリ、と身体を大きく震わせた芽依がおずおずと顔を上げると、首を傾げて訊ねる。


「芽依さんは……自分が夕城に吐いた嘘のせいで、わたしたちが別れたと思っているの?」

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