意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「…………」
何も答えない芽依の態度が、「そうだ」という答えだった。
そんな彼女を見て、月子さんは呆れたように大きな溜息を吐く。
「あのねぇ……まがりなりにも、大企業の社長を務める夕城が、子どもの嘘を見破れないほど間抜けだと思うの?」
顔色はまだ悪い月子さんだけれど、その声や口調はだいぶ調子を取り戻していた。
黙り込む芽依に言い聞かせるように、ゆっくり言葉を紡ぐ。
「夕城は、あの電話がわたしからだとわかっていたのよ?」
「……う、そ」
芽依は、大きな瞳をさらに大きく見開いた。
「嘘じゃないわ。芽依さんは、ちゃんとわたしからの電話だと彼に伝えたと聞いたもの。でも、そうとわかっていても、架け直さなかった。だから、わたしは離婚を決意したの。わたしより、彼女を……芽依さんのお母さんを優先したと思ったから」
過去の過ちを突き付けられた夕城社長の顔が歪む。
けれど、月子さんはふっと笑みを漏らして、肩を竦めた。
「でも……ちがったのね」
「ちがった……?」
「夕城が優先したのは、元恋人ではなくて……あなた。芽依さんの気持ちだった」
「……え?」
それまで、頑なな表情しか見せなかった芽依が、戸惑いの視線を月子さんと夕城社長に向ける。
月子さんは、そんな彼女を包み込むように、優しい笑みを浮かべた。
「わたしがいなければ、あなたのお母さんと夕城が結婚できるかもしれない。そうしたら、夕城に本当のお父さんになってもらえるかもしれない。そう思って、嘘を吐いてしまった芽依さんの気持ちを優先したのね」
「わたし……の気持ち?」
「ついさっきまで、あなたを娘として引き取るためだけに、芽依さんのお母さんと入籍したと言った夕城の言葉を信じていなかった。でも、芽依さんの告白を聞いて、ようやく本当だったんだとわかったわ」
「…………」
「わたしたちが離婚したのは、誰のせいでもない。お互いに、大事なことをちゃんと伝え合う努力をしなかったから。自分の本当の気持ちときちんと向き合おうとしなかったからよ」
月子さんは芽依をまっすぐに見据えたまま、問いかけた。
「芽依さん。あなたは、夕城の娘なのよ。朔哉が偲月さんと結婚しようとしまいと、夕城が誰かと再婚しようとしまいと、それは一生変わらない。あなたの居場所は、なくなったりしないの。それでも……あなたは、朔哉に『女』として必要とされたいの?」
「…………」
「よく考えてみて?」