意地悪な副社長との素直な恋の始め方
自分が知らなかった事実を聞かされ混乱しているのか、ぼうっとした表情の芽依は声もなくただ頷いた。
「というわけで……もう寝てもいいかしら? 一応、こう見えても病人なのよね。わたし」
冗談めかしているが、月子さんの顔には疲労が色濃く滲んでいる。
「も、もちろんだよ! 今夜は僕が横で寝るから、安心して熟睡して」
ベッドを再びフラットへ戻した夕城社長を見上げ、小悪魔的な笑みを浮かべた月子さんが訊ねる。
「今夜だけ?」
一瞬、「うっ」と呻いた夕城社長は胸元を押さえ、何事かを呟き、こちらを振り返った。
「芽依。月子さんの体調が戻ったら、改めてゆっくり話そう。子どもだった芽依が、知らずに誤解していることがほかにもあるかもしれないから」
「……は、い」
「朔哉、芽依を送って行ってくれないか?」
「ああ。オヤジは、しばらく出社を見合わせると秘書に連絡しておくよ」
「そうしてくれるとありがたい」
「あら、そんな必要は……」
「ある」
きっぱり言い切った夕城社長に、何を言っても無駄だと思ったのか、月子さんはくるりと目を回す。
それから、しょんぼりした表情でわたしに詫びた。
「ごめんなさいね、偲月さん。せっかくのデートの予定が台無しになっちゃって……」
「いえ、大丈夫です。デートより、月子さんが大事ですから」
「わたしが元気になったら、ぜひお詫びさせてね?」
「お詫びだなんて、そんな気を遣わないでください」
「でも……」
「元気になった月子さんをたくさん撮らせてもらえたら、それだけで十分です」
「そう? じゃあ……偲月さんに初ヌード写真をお願いしようかしら」
「え」
「ダメだっ! 絶対にダメだから! 映画の濡れ場は我慢できるけど、世の中の男たちが月子さんの裸を延々と眺めるなんて……絶対に、ダメだ」
真顔で主張する夕城社長に、月子さんはくすりと笑う。
「やあねぇ。冗談に決まってるでしょう? こんなオバサンの裸を見て、喜ぶひとがいるわけないじゃないの」
「僕は喜ぶよ」
「…………」