意地悪な副社長との素直な恋の始め方
元ギャルで、元ヤンではない
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それぞれ、思いがけず衝撃の告白を耳にすることになり、穏やか和やかとは言い難い雰囲気のまま月子さんの病室を出て、四人でエレベーターに乗り込んだ。
「車で来ているから、二人とも送って行く」
「方向が逆だろ。俺と偲月はタクシーで帰る」
当然とも言える朔哉の申し出を流星は断った。
「大した距離じゃない。母さんが世話になったし、送らせてほしい」
簡単には引き下がりそうもない朔哉に、流星は唇を歪め、嘲笑する。
「いまの偲月は、おまえらと一緒にいたくないと思うぜ?」
「……どういう意味だ?」
「り、流星さん!」
一気に険悪な雰囲気が漂い、朔哉を挑発しないよう流星の袖を引いて止めようとしたが、その手をぎゅっと握りしめられる。
(ちょ、ちょっと!)
なぜ手を握る、と驚いたが、さらに驚きの発言を耳にした。
「謝れよ」
(え、な、なに? どうして……流星さん、怒ってる?)
顎を上げ、挑むように朔哉を睨む横顔は、いままで見たこともないくらい険しく、冷ややかだ。
「偲月の言葉を疑ったこと。偲月の電話を事情も聞かずに切ったことを謝るのが、先だろうが」
「…………」
「芽依さん。アンタ、自分がしたことわかってんのかよ? 今回は、大したことなかったからよかったけどな。朔哉は何も知らないまま、実の母親と二度と会えなくなっていたかもしれないんだぜ?」
「……ごめんなさい」
目を潤ませて謝る芽依にも、流星はまったく動じない。
「そもそも、何で勝手に電話に出られたんだよ? 社用の、しかも副社長のだぞ? 朔哉の管理が甘すぎるだろ」
「あれは! 会議中、秘書が預かっていたのを彼が少し席を外す間、わたしが預かったの。だから、お兄ちゃんは悪くないの」
「いいや。朔哉が悪い。偲月から折り返しがないことを不審にも思わず、電話を架けたと言う偲月の言葉を頭ごなしに否定した。芽依さんは嘘を吐かないけど、偲月は吐く。そんな勝手な先入観で決めつけた。そうだろ?」
「…………」
苦い表情で黙り込む朔哉が、言い訳も反論もできないのは、自覚しているからだろう。
流星は、何が何でも二人から謝罪を引き出すつもりらしいが、いまさら朔哉を、芽依を責めたところで、何かが変わるわけでもない。
月子さんは無事で、夕城社長との拗れた関係も修復できそうだし、芽依も今回の件を反省し、改めて家族の絆を確認して、きっといい方向へ向かうだろう。
それで十分だった。
「もう、いいよ」