意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「仕事の話は、事務所に連絡してください」
「偲月、」
「誘っていただくのは嬉しいのですが……、二人きりで食事をしたり、どこかへ出かけるといったような、公私混同を疑われる行動はやはり慎むべきだと思います。大切なひとを悲しませるようなことは、しない方がいいですよ。夕城副社長」
我ながら、イヤミったらしいなぁと思いつつ、にっこり笑う。
「なっ……、どうしてそうなるんだ! だから、芽依のことは、妹以上には思っていないと何度言えば、」
「芽依のこと、妹以上には思っていないとしても……わたしは、妹以下でしょ」
「…………」
「信頼する友人ですら、ない」
「ちがう!」
「……ちがわない」
「だから、悪かったと謝っているだろう!」
「……どこが?」
「どこがって……」
苛立ったように声を荒らげる朔哉に、腹を立てているのはこっちの方だ、と思った。
ふつふつと込み上げるものが、怒りなのだと自覚した途端、導火線に火が点く。
「ねえ……待ち合わせに行けないのに、何の連絡もしないほど、わたしが常識知らずだと思ってたの? 月子さんが倒れても、朔哉に連絡を取ろうとしないほど、酷い人間だと思ってた? 芽依との関係を疑っているから、彼女に意地悪して、嘘を吐いて、朔哉との関係を壊してやろうと企むような女だと思ってた?」
「そんなことは、思っていない!」
「そうは思えない扱いなんだけど? そりゃあ、わたしは芽依とちがって、いかにも悪女顔だし? 優しそうにも、気が弱そうにも見えないし? 放って置かれても生き延びられる雑種だし? 多少のことでは、折れたり枯れたりしない。けど………」
震えそうになる声をコントロールするために、大きく息を吸い込んで、堪えているものがうっかり溢れないよう目を大きく見開く。
「どんなに丈夫なものだって、何度も同じ場所にダメージを受ければ、壊れる。何も言わないからって、傷つかないわけじゃない」