意地悪な副社長との素直な恋の始め方
八木山さんの入院により、コウちゃんの助手として事務仕事もカバーしなくてはならず、忙しくしていたため、シゲオと会うのは月子さんが倒れた日以来だ。
朔哉との喧嘩については、報告も相談もまだしていない。
「ハジメから聞いたのよ。元ギャルを彷彿とさせる、見事なキレっぷりだったらしいわね?」
「あれ、は、そういうんじゃ……」
「しかも、トドメまできっちり刺したらしいじゃないの」
「は? トドメ?」
何のことだろうかと首を傾げたわたしを見下ろし、シゲオはニヤリと笑った。
「大っキライって叫んだんでしょ?」
「え……ああ、まあ……」
タクシーの中、怒りに任せて叫んだのは憶えている。
あの時のタクシー運転手にとって、わたしは本当に迷惑な客だったと思う。
一応、降りる時にお詫びはしたけれど。
でも、なぜあの時の叫びがトドメになるのか。
さっぱり話が繋がらない。
「朔哉ってば、よっぽど焦ってたんでしょうねぇ。ハジメに、偲月に手を出したら、地球の裏側に左遷してやると脅す電話を架けてきたんですって」
「……い、いつ?」
あの時、とても面倒くさそうに電話に応答していた流星を思い出し、血の気が引く。
イヤな予感ほど当たるもので、にんまり笑ったシゲオが、知りたくなかった事実を告げた。
「アンタがタクシーに乗って走り去って、間もなくぅ?」