意地悪な副社長との素直な恋の始め方

八木山さんの入院により、コウちゃんの助手として事務仕事もカバーしなくてはならず、忙しくしていたため、シゲオと会うのは月子さんが倒れた日以来だ。
朔哉との喧嘩については、報告も相談もまだしていない。


「ハジメから聞いたのよ。元ギャルを彷彿とさせる、見事なキレっぷりだったらしいわね?」

「あれ、は、そういうんじゃ……」

「しかも、トドメまできっちり刺したらしいじゃないの」

「は? トドメ?」


何のことだろうかと首を傾げたわたしを見下ろし、シゲオはニヤリと笑った。


「大っキライって叫んだんでしょ?」

「え……ああ、まあ……」


タクシーの中、怒りに任せて叫んだのは憶えている。
あの時のタクシー運転手にとって、わたしは本当に迷惑な客だったと思う。

一応、降りる時にお詫びはしたけれど。

でも、なぜあの時の叫びがトドメになるのか。
さっぱり話が繋がらない。


「朔哉ってば、よっぽど焦ってたんでしょうねぇ。ハジメに、偲月に手を出したら、地球の裏側に左遷してやると脅す電話を架けてきたんですって」

「……い、いつ?」


あの時、とても面倒くさそうに電話に応答していた流星を思い出し、血の気が引く。

イヤな予感ほど当たるもので、にんまり笑ったシゲオが、知りたくなかった事実を告げた。


「アンタがタクシーに乗って走り去って、間もなくぅ?」


< 421 / 557 >

この作品をシェア

pagetop