意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「ねえ、偲月さん。大丈夫?」
知らず溜息を吐いていたのだろう。
月子さんが、心配そうな表情でわたしを覗き込む。
「だ、大丈夫です。コウちゃ……日村さんのところで、久しぶりに連日事務仕事して、パソコンいじってたから、ちょっと疲れてて……」
「そう? あまり無理しないでね? とにかく……偲月さんがどんな選択をしても、わたしは応援するわ。でも、後悔するとわかっていることは、してほしくない。ちゃんと自分の気持ちに向き合って、本当に望んでいることを選択してね?」
「……はい」
「何かわたしにできることがあれば、いつでも遠慮なく相談して。朔哉は関係なく、わたしと偲月さんはお友だちなんだから……。あら、ごめんなさい。このあと今後の撮影スケジュールの打ち合わせがあるんだったわ! すっかり忘れてた……」
月子さんの優しい言葉に、危うく泣きそうになったが、マネージャーが彼女を呼びに来たおかげで、何とか踏み止まれた。
「あ、ちなみに。もしも、朔哉が観覧車に乗るプランを実行したら、どんなに怒っていたとしても話をきいてあげてくれないかしら?」
「え? 観覧車、ですか?」
「そうよ、観覧車。じゃあ、撮影スケジュールが確定したら、連絡するわ」
「はい、よろしくお願いします」
謎の言葉を残し、監督やスタッフたちの下へ戻る月子さんに手を振って、湿ったまつげを乾かすように目を瞬きながらスマホをチェックする。
花夜さんから、『くれぐれも忘れずにブライダルサロンへ行くように!』というメッセージに続けて、流星からもメッセージが届いていた。
『機嫌は直ったか? お望みならプロポーズしてやっから、ちゃんとブライダルサロンに来いよ!』
(いや、別に機嫌が悪わけじゃないし。プロポーズも望んでないけど。しかも、なんで流星さんがブライダルサロンに行くの……?)
流星には、こっぱずかしい場面ばかりを目撃されていて、シゲオとは別の意味で足を向けて寝られないくらいお世話になっているが……時々、その言動が理解不能だ。