意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「偲月、アンタこのままブライダルサロンへ行くんでしょ? わたしも一緒に行くわ。アンタひとりで行かせたら、途中で逃げ出すかもしれないし」
このあと、仕事の予定が入っていないシゲオは、花夜さんからわたしのお目付け役を頼まれているという。
「仕事なんだから、逃げたりしないし」
「そう言っておきながら、逃げ出すのがアンタだもの。朔哉とうっかり出くわそうものなら、絶対逃げるでしょ。とにかく、一緒に行くわ。わたしも『Claire』のドレス、実物を見て、どんなメイクにするか検討したいし」
(確かに、朔哉とうっかり出くわしたら……逃げるかもしれない。でも、)
「あのさ……もしかしたら、オファー自体がなくなるかも、よ?」
クライアントの機嫌を損ねて契約がなくなったとか、業界ではよくある話ではないかと指摘すれば、シゲオは呆れ顔になる。
「朔哉がそんなこと、するはずないじゃない。そんなことしたら、『Claire』との契約を打ち切られるかもしれないんだから」
「でも、別にモデルはわたしじゃなくてもいいわけだし……」
「あのねぇ。アンタを起用したいというのは、朔哉の希望でもあるけれど、『Claire』の希望でもあるのよ?」
「え。そう、なの?」
「ほんっとーに、何一つ聞いてなかったのね……あのプレゼン」
軽蔑のまなざしを向けられ、首を竦める。
「す、スミマセン……」
「まあ、とにかくドレスを見れば、アンタも俄然やる気になるかもしれないし。とっとと行くわよ!」
「……ハイ」