意地悪な副社長との素直な恋の始め方
勉強熱心、仕事熱心なシゲオによる解説付きで、いまどきのウエディングドレスの流行りを学ぶ。
一番人気があるのは、大人っぽさも可愛さも両立できるAラインのドレスらしい。つぎに、王道のプリンセスライン。あとは、好みでマーメイドやらエンパイアやら様々。
手っ取り早いのはレンタルだが、最近ではセミオーダー、もしくはフルオーダーを希望するひとが増えている。
フォーマルな服に限らないけれど、服というものはそのデザインにおけるジャストサイズで着てこそ、服も、それを着る人も、一番美しく見えるように作られている。ブカブカ、もしくはピチピチのドレスでは、見た目も着居心地も悪い。
その上、レンタルとオーダーでは思ったよりもかかる費用に差がなく、オーダーしてから仕上がるまでの時間も楽しめるとなれば、やっぱり世界に一着だけのドレスが欲しくなるのは当然だ。
シゲオと二人で、「これ、すごくステキ」「あら、いいわね。こっちもアンタに似合いそうよ?」などと自分好みのドレスを物色していると、なぜかタキシード姿の流星が現れた。
「よお、偲月。月子さんの撮影、どうだった?」
「大丈夫だった」
「大丈夫なんてもんじゃないわよ。全部一発OK。演技、神がかってたわ」
シゲオの絶賛に、流星はふっと笑う。
「さすが月子さん」
「病み上がりの儚い感じが透明感を増していて、メイクなんて必要ないくらいキレイだったわよぉ。やっぱり恋は女を美しくするのよねぇ」
「そうだな。美しく……そして、たくましくする」
意味ありげな視線を寄越す流星を睨み返す。
「どういう意味?」
「んな、しかめっ面すんなって。ブライダルサロンに来る客は、みんな幸せそうな顔をしてるぜ?」
「それは、花嫁だからでしょ」
「偲月だって、そうだろ?」
「本物じゃないし」
「本物にしてやろうか?」
「結構です」
「遠慮すんなって。素直になれよ」
「なってるから! それで、『Claire』のドレスは?」
「こっちだ」
流星の後に従って、カウンターの奥からバックヤードへ入り、二階へ。
荷物置き場兼会議室と思われる一室に、案内された。